君は誰?3

卓球は彼にはまだ難しいようでした。

卓球台が高すぎるので台を使って練習するのは無理がありましたが、

そもそも床の上で彼のラケットの位置に私が球出しをして、それを打つのもなかなかうまくいきません。

 

男の子は動きを止めて隣で試合をしている2人を見つめ始めました。

「お兄ちゃん、かっこいいね。パパも上手だね。楽しそうだね。」

と私は話しかけました。そして

「あ、惜しい!パパがんばれー!」と声援を送りました。

 

 

突然男の子が叫びました。

「おにいちゅあーん、かっこーいーいー!!(お兄ちゃん、かっこいい)」

「おにいちゅあーん、かっこーいーいーねえー!!」

みんなびっくり。

「うん、お、お兄ちゃんカッコいいね!」

と言うと今度は

「ぱーぱー、ぐぅわんばぁれぇーー!(パパ、がんばれ)」

彼は家族を応援するみたいにとても楽しそうに大きな声で応援し続けてくれたのでした。

 

家族3人だけでは流れないような不思議な空気が流れました。

旦那も息子も感じたようです。

小さな家族をみんなで囲んで微笑むようなあの空気です、たぶん。

ひとりっこの息子の生活の中に「お兄さんとしての自覚」という経験はあまりないはずですが、もしかしたら今感じているかも。

私たち家族が体感したことのない(おそらく、ちょっと前までみんなが願っていたであろう)4人家族を、私達はつかの間共有したのかもしれません。

愛おしさってこみ上げるものですね。

笑いながらちょっと泣きそうになりました。

幸せで、別れが切なかったです。

私たちと遊んでくれてありがとう。

 

 

 

男の子は、きっと自分の生活を楽しんで生きることを学ぶでしょう。

楽しそうなことを見つけて入っていく力がありますから!

すでに身につけている対人関係能力の高さは彼の生きる武器になるでしょう。

・・・なんだか一休さんのお母さんの気分

 

 

 

【後日談】

後日談があります。

その後2回ほど旦那と息子の2人はビリヤードをしに行っています。

「いるかな~」と話しているとやはり表れるそうです。

嬉しそうに「来たなーー!」って感じで、満面の笑みで、ダダダダーッと走ってくるそうです。

で、近くで見ている。で、たまにいなくなる。で、戻ってくる。

周りから見れば3人父子です。

そうして最後、「じゃあ俺たちそろそろ帰るよ」「バイバイ」って別れるので、知らない人からは変な目で見られる、と旦那が言ってました。

 

ともかく、こうして彼にはきっと家族や友達が沢山いて、そして愛されているのでしょう。

 

施設のスタッフの方々がさりげなく館内を循環して、定期的に彼のことを確認している気もします。

 

神様、くれぐれも事故や怪我のないよう見守っていて下さい。

 

                                    (おわり)